社葬とはどのような葬儀なのか?メリット・デメリット、特徴を解説

社葬とは経営者や企業に多大な貢献をした人物が他界したときに、企業が運営主体となって執り行う葬儀で、取引先・関係者・株主などを招待する為、大規模な葬儀になることもあります。
多くの社葬は、他界した人物の遺族による比較的小規模な密葬が行われた後、2週間から2か月の間に挙行されます。

社葬の目的

例えば経営者が他界したとして、故人の遺族と重要な関係者でよくある葬儀を済ませれば十分なはずなのに、葬儀が済んだ後日にわざわざ会社が葬儀を行う意味があるのか疑問になりそうなものです。
ですが社葬は顧客や株主などに対して新体制の公布をしたり、新体制の役員や社員の結束力を高めるなど、大切な目的を持った重要な行事なのです。

追悼

社葬の一番大きな目的は会社に対して多大な功績を残した、あるいは業務中に殉職した人物の逝去を全社を挙げて追悼し、故人の功績を称えることで感謝の気持ちを表します。

新体制の喧伝

経営者や重責を担う立場の人物などの逝去は会社にとって大きな転換となるので、顧客・株主・取引先などが、今後の経営にどのような影響が出るのかという不安を抱くこともあります。
不穏な空気は会社にとって危険な兆候でもあるので、経営陣が刷新され会社の体制が新しくなっても、故人の意思を継承し今まで通り安定した事業を継続するという意思表示が必要です。
とは言え関係者を個別に訪問して新体制の説明をするというのも現実的ではないので、社葬の挙行で今後の経営や事業が盤石であると関係者や一般の人たちにも喧伝し、良好な関係を継続するための場とするのです。

会社の結束力を高める

他界した企業の重要人物や貢献者である故人を悼むことは、「会社の未来の発展へ貢献する」という全社的な気持ちが生まれることでしょう。
社葬は、故人の遺志や理念を継承し、新体制の下で社内の結束力をより強固にするためにも、必要な儀式と言えます。

このような目的を持つ社葬は、中身が薄すぎたり軽薄過ぎるようで何を伝えたいのかわからない式になるので、円滑な進行、参列者への配慮、会社としての明確な目的と品格がある、厳粛な式でなければなりません。
社葬は貢献者を弔う場ではありますが、旧陣営と新陣営間の事業継承の場でありながら、関係者へ新体制の発表と承認、社員の意識高揚という目的も兼ねている、極めて重要な儀式とも言えます。

社葬は三種類

社葬は大きく分けて「社葬」「お別れ会・偲ぶ会」「合同葬」の三種類があります。運営主体が企業である場合や故人と企業の共同であったり、選ばれる会場も様々です。

社葬

まず遺族親族のみで挙行する個人葬(密葬)を営み、2週間から2か月後あたりを目安として企業が運営主体となり、取引先・株主・顧客などを招待して挙行する、厳粛な葬儀が社葬です。
社に多大な貢献をした故人を弔うと共に、取引先・株主・顧客などに新体制や今後の経営姿勢を関係者その他内外に向けて喧伝すると同時に社内の結束力を高めるための重大な儀式になります。
社葬の費用負担は企業で、参列者は数千人規模になることもあり、宗教色がある場合はホテルを使うことできない場合があるので、選ばれる会場は大きな寺院、セレモニーホールなどになります。

お別れ会・偲ぶ会

「お別れの会」「偲ぶ会」とも言われ、先に解説した社葬と同様に、運営主体は企業で密葬の後2週間~2か月での挙行、関係者を招待しますが、会の内容は全く自由で無宗教形式になることが特徴です。
厳粛な雰囲気が全くなく、故人の映像の上映や生演奏などがあったり、立食パーティー形式で途中退席自由など、社葬の真逆的な形の会になります。
社葬同様にお別れの会の費用負担は企業となり、参列者も社葬同様でしょう。会場はセレモニーホール、宗教色が無いのでホテルでも挙行が可能で、小規模の場合はレストランなども選ばれています。

合同葬

合同葬は企業と遺族が合同で葬儀を主催し、個人の葬儀と社葬が同じ場所で同時に行われ、葬儀・告別式、火葬・骨上げまで全て一度で済ますことが特徴です。
遺体がある状態での挙行となるため逝去から遅くとも1週間以内には執り行う必要あり、葬儀までの準備期間は社葬やお別れ会と比較して極度に短くなります。
また、社葬と個人葬が一体化することで葬儀費用は遺族と会社がの両方で負担すること、別日に大掛かりな葬儀をする必要もなくなるので、個人・企業双方に葬儀費用の軽減ができます。
宗教色の有無は故人と遺族の意向が優先され、参列者は故人の遺族親族や友人知人、取引先関係者などかなり広い範囲に渡ることが多くなり、会場は寺院斎場、ホールなどになります。
合同葬は個人と企業の共同主催となるので同族会社によくみられる形式で、社葬を別日に執り行う場合より葬儀費用を軽減できるため、同族会社で無くとも合同葬を執り行う中小企業が増えているようです。

多くは個人と企業が一緒に葬儀を行う形態を合同葬と言いますが、複数の企業や団体が合同で葬儀をすることも「合同葬」と呼称します。

社葬の喪主と施主

個人の葬儀で喪主とは葬儀の主催者と遺族の代表者と言う意味を持ち、葬儀社と葬儀の打ち合わせをしたり、弔問客や僧侶への対応など、葬儀全体を仕切る人です。
施主は葬儀費用を出す人ですが、最近の個人の葬儀では実質的に喪主が施主も兼ねています。社葬の場合の喪主と施主は少々意味が違います。

社葬の施主(葬儀委員長)

社葬で施主と言う名前が出ることはありませんが、社葬の費用負担と運営は会社側になるので、施主の役目を果たす会社の代表者として葬儀委員長を選出します。
会社の社長など企業の最高責任者が他界すると会社の内外が不安を抱くこともあるので、会長はまたは次期社長が葬儀委員長として社葬を円滑に執り行うことで、関係者の不安を取り除くのです。
葬儀委員長は会社の将来に影響を及ぼす非常に重要な役割で、社葬の最高責任者かつ社葬時の会社の顔とも言える人物となるのです。
諸事情などで葬儀委員長を社外の人物に依頼する場合は、加盟組合の会長、議員、地方自治体の長などに要請することになります。

社葬の喪主

社葬は全てを会社(と葬儀社)が運営する葬儀ですが、喪主は故人の遺族の代表者が務めるので個人の葬儀と変わりはありません。
ですが社葬を行うにあたって会社の都合で勝手な喪主を指名することはできないので、遺族の同意と協力を仰ぐ必要があります。
小規模であったり家族経営の会社の場合は、葬儀委員長を立てる必要が無いことも多く、喪主が施主を兼任する場合もあります。

社葬で弔う人物

社葬というと会社社長が他界したときに会社が行うお葬式のような印象がありますが、お偉いさんだけを対象にした葬儀ではなく、一般社員でも社葬を行う場合があります。

企業の創業者や重責者

創業者、会長、社長、副社長、執行役員などの会社経営の根幹に携わった人物や、過去にその役職に就いていた人物は、社葬で弔うことになります。

企業に多大な寄与をした社員

例えば一般社員であっても特に目覚ましい功績を残した社員や、会社の発展に多大な寄与した人物は、社葬の対象者となることがあります。

業務中の殉職者

業務遂行中の事故に遭った、あるいは社命に従った結果的に殉職した人物に対して、社として弔意を表し殉職した社員の遺族に対する社会保障の一環として、社葬を執り行う場合もあります。

逝去から社葬前日まで

社葬の対象になる人が逝去したらすぐに社葬の開始、という訳にはいきません。まずはしっかり故人と遺族の意思を汲み、社の内外にしっかりした連絡をすることも必要です。

逝去時

故人の逝去は遺族から総務または人事もしくは秘書に伝えられるのですが、逝去後すぐに社葬の挙行を打診しても遺族が社葬を由としないこともあるので、できれば他界以前に説明をし理解を得ておくことが必要です。
会社関係者は早急に遺族に挨拶をし、緊急連絡網が準備できている場合は決めてある連絡手順と連絡先に従い、重要度の高い役職や人物順で訃報を知らせていきます。
このときに遺族が合同葬を希望したのであれば、社葬ではなく合同葬を行うことに同意するのが良いでしょう。

臨時取締役会の開催と決議

遺族が社葬に同意した場合は臨時取締役会を開催し、社葬の実施と、社葬の形態・宗教の有無・社葬規模・式場・日時・予算・依頼する葬儀社などの基本的な方針を決議して議事録に残す必要があります。
この議事録は、葬祭費用のうち認められた部分を損金計上するために後々必要になるので、必ず作成しておきましょう。

葬儀委員と委員長の決定

葬儀を実行運営する組織として役員を中心とした葬儀委員会を設置し、その中から葬儀委員長を選出しますが、多くは故人の後継者となる次期社長、場合によっては専務などが選出されます。
社葬の実務は、運営、広報、受付、会計、案内、遺族対応、来賓対応、記録、駐車場案内などの役割を社員が担当するのが一般的です。

香典や供物に関する決定

案内状に記載する「供花、香典、供物」を「受け付ける・辞退するか」を決めなければいけません。
例えば香典を受け付けた場合は返礼品の用意が必要です。香典を受け付けないのであれば返礼品の用意は必要は無くなり、香典の管理も、多数の参列者に返礼品を渡す手間も省くことができます。
香典を受け付ける場合、企業の益金にするのか遺族に渡すのかという問題や税務上の問題も出てくるので、香典を辞退する企業が多くなります。

社内通達と社外への通知

取締役会で決定した基本方針を社内に通達することで、社外からの問い合わせについて統一された回答を提供できるよう、社葬についての伝達文を全社員に配信します。
社葬に参列していただく取引先・関係者に、社葬の案内状を送付、ファックスで案内を送る場合もあります。
新聞に死亡広告を掲載する場合、新聞社の空きがある場合は無料で数行を掲載してもらえることもあるようですが、多くは有料での出稿になるようです。

前日の予行

予行としては、参列者の動線や時間配分の確認と修正を行い、受付、祭壇、席次、席数、供花や供物など、全体を見て回り、当日の天候の予測次第では傘の準備などもします。
運営など各係担当の社員も集合して最終的な確認と打ち合わせを行います。

当日の流れ

社葬当日の、「社葬」と「お別れの会・偲ぶ会」の参考例の式次第です。

社葬:仏式の式次第(参考例)

00.(僧侶入場)
01.開式の辞
02.読経
03.弔辞朗読(一人目)
04.弔辞朗読(二人目)
05.弔辞朗読(三人目)
06.弔電奉読
07.葬儀委員長挨拶
08.喪主挨拶
09.葬儀委員長 焼香
10.遺族親族 焼香
11.来賓・参列者 焼香
12.僧侶の法話
13.僧侶退場
14.閉式の辞

お別れの会:無宗教形式の式次第(参考例)

01.開式の辞
02.黙祷
03.経歴紹介
04.故人の映像上映
05.弔辞朗読(一人目)
06.弔辞朗読(二人目)
07.弔辞朗読(三人目)
08.弔電奉読
09.葬儀委員長謝辞
10.喪主挨拶
11.葬儀委員長献花
12.喪主献花
13.遺族・親族・献花
14.来賓・参列者献花
15.閉式の辞

社葬の費用

一口に社葬と言ってもその中身は、会場利用料金、生花・祭壇設置費、飲食接待費用、人件費、警備費用、寺院へのお布施、香典返しなどがあります。
また社葬の参列者数や葬儀の形態、その他様々な要素によって葬儀費用は大きく変わってきますが、参列者一人当たり1万円~4万円あたりが相場になるようです。
社葬の費用は福利厚生費として処理できるものとできないものがありますので解説します。

費用計上できる

01.訃報広告費
02.案内通状の作成発送費
03.祭壇費用
04.式場使用料
05.お布施(社葬中の読経料のみ)
06.移動交通費
07.礼状粗品費用
08.会場での飲食費(遺族、葬儀委員)
09.写真、ビデオ撮影料金
10.その他葬儀セット料金

費用計上できない

01.戒名料
02.本葬以外の読経料
03.棺代、骨壺代
04.火葬料
05.仏壇・位牌費用
06.墓地・墓石費用

社葬のメリット

遺族親族で密葬を挙行し、会社が会社関係者を招待して社葬を執り行うという葬儀の分担によって、遺族が多数の参列者を招く一般葬を挙行するよりも負担が減り、時間的に余裕をもって故人を弔うことができます。
会社の経営者や重責者が他界した場合の社葬は後継者を披露する場となり、取引先、社員、株主、一般の人々など、会社関係その他に対して社の将来像を良い印象にする場にできます。
社葬が社会通念上認められる場合、負担した金額のうち葬儀を執り行うことに際して通常必要だと認められる金額については、経費として支出日が含まれる事業年度の損金に算入することができます。
お別れの会・偲ぶ会は、無宗教形式なので立地の良いホテルを選ぶこともでき、葬儀内容を自由に演出することができるので、花祭壇を使ったり立食パーティー形式の採用も可能です。
合同葬の場合、遺族は故人がお世話になっていた会社関係者に会い、故人に代わってお礼を述べることができ、参列者は火葬をしていない故人と直接対面しお別れをすることが可能となります。

社葬のデメリット

葬儀社は社葬の必要性を訴えけかけるものの、次期後継者は関係各社に書面で知らせて重要な取引先や人物には直接挨拶回りをすれば良いのに、わざわざ何日もかけて大金掛けて社葬をする意味があるのかという疑問。
損金計上とは言うが多額の費用が必要なのは必至だし、葬儀会社や寺院などとの打ち合わせや案内状の送付や会場内の席順の決定など、多くの準備が必要であるなら、通常業務をしていた方が効率的という打算。
合同葬の場合はかなりの多数の弔問客が訪れるので、遺族も弔問客や会社関係の人に挨拶をする必要があり、遺族の時間が接待に割かれしまうと故人とゆっくりお別れをすることが難しくなります。
また合同葬は遅くとも一週間以内に挙行しなければならない為、開催まで日数的な余裕のある社葬と異なり会社側にも時間的な余裕が無いので、合同葬自体の可否、告知、合同葬の規模などを決める時間が乏しくなります。
社葬・お別れの会でも合同葬でも、後継者候補が確定しないまま社葬を挙行した場合、社内派閥間の争いが如実になることもあり、関係各社や株主を安心させることができない無意味な葬儀になるでしょう。

まとめ

社葬は会社の経営者や、多大な寄与・大きな功績を残した社員などが他界した場合に、多数の会社関係者を招待して会社が主催する大規模な葬儀で、最近は平日に執り行われることが多くなっています。
故人に哀悼の意を表し、故人の遺志を継ぎながらも会社の内外に社の安定と今後の意思表示を喧伝する場という意味もあるので、遺族・会社・参列者たる取引先にも良い葬儀になるよう、しっかりした準備が必要です。
突然の代替わりで騒然とする中で社葬の準備をしなければなりませんが、社を挙げての協力体制を敷いて、社の内外が納得できるできるようなしっかりした葬儀を目指しましょう。