従来の葬儀は、安置時の枕飾りから宗教者を呼び、通夜や葬儀告別式などの宗教的儀式の手順を踏み、たくさんの参列者が見守る中で故人を見送るという形が一般的でした。
ですが昨今の社会的情勢の変化で小規模な葬儀が多用されるようになり、価値観の変化もあって従来通りの葬儀ではなく新しい形の葬儀を挙行する人が増えてきました。
そうした流れで、宗教に寄らない葬儀という自由葬・無宗教葬が生まれ、さらにその派生として音楽葬があります。
音楽葬とは自由葬の一種
音楽葬は音楽を取り入れて執り行う葬儀で、基本的に宗教者を呼ばずに挙行します。葬儀中に流す音楽を自由に選べて葬儀内容を自由に組むことができるので、無宗教や自由葬の一種になる新しい葬儀形態です。
今迄の葬儀にあったような僧侶による読経が無い代わりに、故人が好きだった音楽や故人を連想するような音楽を、デジタル音源や生演奏、生の歌唱などにより葬儀会場内に流し、故人を(供養と言うより)追悼します。
また無宗教形式の葬儀ですが、葬儀の進行や式場内の飾り付けなどは、全く宗教色を排したものから宗教色があるものまで、様々かつ自由に企画できることも音楽葬の特徴です。
故人が好きだった曲を流して明るく見送るという側面もある新しい形式の葬儀なので、葬儀を主宰する遺族側や葬儀に招かれた参列者も、音楽葬の細かい内容まではわからないことが多いでしょう。
音楽葬の特徴やメリットデメリットなども踏まえながら紹介します。
音楽葬で演奏される音楽
音楽葬で演奏される音楽で一番多いのがクラシックです。他にジャズ、雅楽、和楽器での演奏など様々ですが、斎場内で演奏されることを考慮して、他の葬儀会場に迷惑にならないような音楽が選ばれます。
音響機器を使う
故人が好きだったりよく聞いていたCD、故人が生前に希望していた曲、故人を連想させるような曲、思い出の曲、インターネット上の曲などを、音響機器のスピーカーから流します。
楽器などの生演奏
洋楽系ではクラシックの生演奏やジャズの演奏もあり、落ち着いた曲目の生演奏で葬儀に安らぎをもたらせます。ウクレレの演奏もあるそうす。
故人の希望などによっては、大きな音を出せるような会場を選んだ上でロックバンドが演奏したり、故人が生前に加入していたバンドメンバーが葬儀に参加して、日本のポップミュージックの生演奏をすることもあります。
和楽器演奏になると三味線や尺八の生演奏であったり琴の生演奏などがあり、故人や遺族の希望で雅楽と舞楽(雅楽に合わせて舞う「舞」です)もあるそうです。
生歌唱
例えば故人が所属していた合唱団のうち何人かを招待して生合唱をしてもらったり、声楽家を招いて故人を偲びます。
ロック葬や中編成なども
よくある葬儀の宗教色を廃して別途料金で楽器演奏者を追加する音楽葬の他に、爆音ロック葬や中編成の生演奏で音楽葬をする、言わば作り込んだ内容の音楽葬を執り行うことも可能です。
会場・演奏者の手配と著作権の確認が必要
ですが作り込んだの音楽葬の場合は、大音量の演奏を許可してくれる、ある程度の大きさのある会場の手配が前提です。
選んだ音楽種類の演奏家の確保、例えばロック葬の場合は日本音楽著作権協会と葬儀社間の契約状況などの確認が必要です。
(著作物等の保護期間は原則的に著作者の死後70年までなので、クラシック音楽の場合多くは著作権の問題がありませんが、例えばロックやポップスなどの多くは曲の使用料を支払う必要があります。)
喪主遺族の目的意識が必須です
音楽葬は自由度が高すぎるとも言えるので、作り込んだ葬儀にするためには遺族側にも葬儀内容について明確な目標や目的が求められ、葬儀社は遺族の意思を汲んで葬儀をしっかり企画しなければなりません。
最悪の場合、内容が薄く何をしたいのか遺族も参列者も理解できない意味不明な音楽葬になるため、喪主遺族の目的意識と、葬儀社の音楽葬の経験と知識、企画力が問われます。
最悪な音楽葬になってしまうことを避けるためには、できれば故人の逝去前から複数の葬儀会社から音楽葬について話を聞いておくのが一番です。
音楽葬が増えてきた背景
音楽葬は徐々に増えてきているそうです。と言うよりもそもそも自由葬・無宗教葬が増えているので、その一種である音楽葬も増えているようです。背景としては価値観の変化が挙げられます。
宗教に対する価値観が変化した
宗教者を呼ぶ葬儀をするのであれば、通夜と葬儀・告別式の読経に20万円~30万円、戒名の料金が階位にもよりますが10万円~100万円以上、読経と戒名の合計額である「お布施」が30万円~120万円以上にもなります。
宗教を否定する訳ではありませんが、世の中が変化し、日頃から信心深い訳でもなく生きていく上でさほど必要を感じないのに、葬式の時だけ何十万円も出費するという宗教の価値が理解できなくなったという背景があります。
このような理由がある無いに関わらず、お経の代わりに、故人が好きだったあるいは個人の象徴になるような音楽を式中に流して見送りたい、という理由も音楽葬を選ぶ理由です。
葬儀に対する価値観が変化した
以前は葬儀と言えば、安置・納棺・通夜・葬儀告別式まで全て宗教的手順を踏み、沢山の参列者を招待して盛大かつしめやかに行う一般葬が当たり前でした。
それが時代の変化に連れて、参列者を近親に絞って小規模に営む家族葬、通夜を省略した一日葬、通夜も葬儀告別式も排した火葬式(直葬)など、葬儀自体が小規模かつ簡潔になり始めています。
節度の範囲で自由な葬儀を
これら葬儀の形態の変化に伴い、葬儀の内容も今迄の宗教的作法に従った没個性的なものではなく、節度を守った範囲で明るく、内容も自由で、故人の遺志(意思)を汲んだ葬儀を行いたい、という需要が増えたのです。
自由な演出の音楽葬と言うことで、祭壇や棺の周囲を今迄の葬儀では考えられないような派手な生花で囲み、ハープ奏者の演奏で葬送するという例もあるそうです。
音楽葬の流れも自由
音楽葬場合の臨終から骨上げまでの流れを紹介します。この一連の流れの中で共通するのは、宗教にこだわらなくて良いということと、節度を崩さない範囲内での自由な内容です。
01.臨終・搬送・安置
病院で死亡した場合は医師による死亡の確認と死亡宣告がなされ、遺体は死亡処置が施されて霊安室に移されます。医師はその間に死亡診断書を作成しますので、看取った家族は重要な親族などに故人の逝去を連絡します。
霊安室は長くても3時間などの時間制限があるので、速やかに遺体搬送業者と搬送先を決めなければなりません。
四種類から選ぶ安置場所
搬送安置先は
・自宅
・葬儀社の安置施設
・斎場内の安置施設
・民間の遺体ホテル
のいずれかになるでしょう。
例えば深夜早朝に他界した場合など、電話をするのが非常識とされる時間帯であっても、葬儀社は24時間365日の受付なので遺体搬送の依頼をしても大丈夫です。
安置は宗教にこだわらなくてもいい
自宅内や対面できる安置場所に安置した場合は、北枕にしたり枕飾りなどの祭壇を組むなどの宗教的儀式にこだわる必要はありませんし、音楽葬という無宗教葬なので安置時に宗教的な儀式を行う必要はありません。
02.葬儀内容の打ち合わせ
葬儀社にはまず音楽葬を希望していることを伝え、どの程度の音楽葬実績があるか聞いてみましょう。音楽葬はまだ少ない葬儀なので経験が乏しい葬儀社もあるようです。
家族葬や一日葬などの葬儀社パッケージに別途料金で派遣演奏を付加するだけ、というような内容であれば多くの葬儀社で対応可能ですが、それでも何か曖昧なことを言う葬儀社はやめておいた方が良いです。
03.納棺
通夜がある葬儀にする場合は通夜挙行の前に、通夜が無いのであれば告別式の前に行うのが納棺で、安置していた遺体を棺に移します。
無宗教形式の納棺なので宗教的儀式をする必要はありませんが、この時に故人との思い出の品などの副葬品を入れるか、または告別式の終盤に入れます。
04.通夜と食事会
音楽葬は自由葬でもあるので、一般的な葬儀のように宗教的儀式に則った手順や進行などは無く、葬儀社の司会者が葬儀の進行を仕切ってくれます。
音楽葬通夜の進行例
ここでは宗教色が無い音楽葬の一例を挙げてみます。
1.遺族親族到着
2.開式
3.黙祷
4.故人の略歴紹介
5.献奏・献花 同時進行
6.喪主挨拶
7.閉式
8.食事会
9.散会
食事会は着席でも立食形式でもよく、故人の好きだった食べ物や軽食など選べる範囲は様々です。
05.告別式
従来のよくある葬儀であれば「〇〇家 葬儀・告別式」と書かれますが、宗教者がいないので宗教的儀式である「葬儀」は無く、社会的儀式である告別式のみの挙行になります。
音楽葬告別式の進行例
宗教者を呼ばない音楽葬告別式の進行例です。
1.遺族親族到着
2.開式
3.黙祷
4.故人の動画(または画像など)上映
5.献奏・献花 同時進行
6.感謝の言葉
7.弔電奉読
8.別れ花(副葬品)
9.遺族代表挨拶
10.閉式
11.出棺(火葬場に向かいます)
06.火葬と骨上げ
火葬場で音楽の演奏などは他家への迷惑になるので、やめておきましょう。他の葬儀と同様に骨上げが終わった時、あるいは精進落としが終わった時に音楽葬も終了します。
火葬場での演奏は憚らある
あるあ火葬場に到着すると棺は火葬炉前に置かれ、最後に10分ほどの故人とのお別れの時間がありますが、音楽葬だからと言って音楽を演奏したり流したりしない方が良いでしょう、というより演奏禁止です。
というのも火葬炉のすぐ近くの控室で他家が待機していることもあり、火葬場で大きな音を出すことは非常識になるためです。
骨上げ
お別れの時間が終わり、棺が火葬炉に入ってから1~2時間程は待機時間になり、遺族は控室で軽食を取りながら故人の話をするなど歓談の場とします。
火葬終了の知らせが入ると火葬炉から出された遺骨の周りに遺族が集まり、骨壺に遺骨を納めて蓋をし、白木の骨箱に骨壺を入れ、骨覆いをかぶせると火葬全体と音楽葬の終了です。
精進落とし
精進落とし(と言うより無宗教なので食事会)がある場合、葬儀会場に戻って食事会を別途設けてからの解散となり、遺族参列者はそれぞれ帰路に就きます。
音楽葬の費用
音楽葬の費用は、葬儀の規模と内容の凝り方によるものの、例えば安い一日葬プラン(令和五年時点 例:約32万円)に奏者一人を付けた場合であれば総額35万円程度です。(別途料金オプションや飲食返礼品費、宗教費用などを含まず。)
実際は選んだ葬儀の種類(一般葬・家族葬・一日葬など)と音楽葬の規模内容によって違うというのが正しい回答になります。
パッケージプランに奏者を付ける例
例としてよくあるのが、葬儀会社が売り出している葬儀商品(一般葬・家族葬・一日葬などのパッケージプラン)に、別途料金で派遣奏者の生演奏を付けるというのもで
・葬儀パッケージ料金
・飲食・返礼品費
・奏者の派遣料金
の合計金額が音楽葬儀全体の費用になります。
奏者の料金は一人単位
別途の派遣演奏料金は各葬儀社で様々な料金と派遣人数があり、令和五年時点でよくありそうな価格帯は
奏者一人・一日二時間の演奏で35,000円前後
奏者一人の追加で25,000円前後でしょうか。
奏者一人の場合、通夜(1日目)と告別式(2日目)で二時間ずつ演奏すると約7万円程の別途料金。
奏者二人の場合は、通夜告別式で二時間ずつの演奏の合計金額は約12万円前後になるでしょう。
例えば極単純に考えて、20人参列の無宗教の家族葬パッケージプラン(例:50万円)を契約し、香典をお断りする代わりに飲食品返礼品費は無しで、奏者二人を2日間の場合は合計約62万円ということになります。
音楽葬を作り込む場合は金額不明
葬儀の企画段階から葬儀内容を作り込むような音楽葬の費用はかなり高くなります。
金額の高い会場が必要な場合も
極端ですが、かなりの人数の奏者を招くクラシックの生演奏もあれば、ロックを爆音で流す音楽葬もあり、企画した内容によっては斎場が使えないので、使用料が高い別のホールなどを借りる必要があります。
二回に分けた葬儀費用が高額
また、規模が大きい、あるいは斎場で挙行するには派手過ぎる音楽葬にするなら、密葬形式として先に近しい身内だけで家族葬形式で葬儀火葬までを行い、後日お別れ会形式で音楽葬をした方が良い場合もあります。
この場合は、実質葬儀が二回ですし、家族葬費用・飲食返礼品費・音楽葬の会場費用(例:ホテルなど)・奏者費用・葬儀内装費用や特別発注祭壇費用などが必要なので、かなりの高額になるでしょう。
音楽葬のメリット
●故人の好きだった曲や一緒に聞いた曲を流すことで、故人らしさを音楽で表現することができ、従来の葬式よりも個性が際立ち、遺族にも参列者にも印象に残る葬儀が音楽葬です。
●喪主遺族が中心となって音楽葬の選曲をするので、故人の好きな音楽で最後を見送りたい、家族が一丸となって故人を送り出す、という意識が強くなり、とても充実した葬儀にできます。
●従来の葬儀に必須だった宗教者による読経が無いので、バイオリンやフルート、ジャズや和楽器の奏者を招くことが可能です。音楽葬の演出や式次第も喪主遺族が自由に作ることができます。
●宗教や宗派に縛られることなく葬儀を行えるので、画一的で没個性的な葬儀にはならず、現代風な祭壇や生花をふんだんに使った飾り付けなどもできるので、故人の希望を叶えることも可能です。
●無宗教葬にすることで、例えば仏式なら読経代と戒名料の合計額である宗教者へのお布施費用が節約できます。戒名の階位によっては合計で100万円以上の節約効果が見込めます。
音楽葬のデメリット
●葬儀内容が自由すぎる場合は参列者が戸惑うか全く理解してもらえないこともあり、自由すぎない内容でも菩提寺がある場合は無宗教葬にしたことが受け入れてもらえず、先祖代々の墓に入れてもらえないことがあります。
●菩提寺の理解が得られない場合は、宗教者も入れて控えめな演奏などの音楽葬にすれば解決することもありますので、音楽葬にしたい場合は、有力な親族・葬儀社・菩提寺に相談したり説明することがお勧めです。
●選曲が難しいこともあります。故人が好きな曲でも、例えばクラシック音楽なら音楽葬を理解できない参列者も文句を付けにくいのですが、ポップスや爆音ロックは全く理解してもらえないことを覚悟すべきです。
●CDやインターネット経由でも生演奏や生歌声であっても、選んだ曲によっては使用料金が発生すること、葬儀中に同じ曲ばかり流すと飽きられて参列者が疲れることも意識しておきましょう。
●音楽葬の規模内容によってはしっかりした企画が必要で、音楽葬の内容や進行、祭壇や飾りつけなどをしっかり作り込まないと中身が薄くなり、何をしたいのか全くわからない葬儀になります。
まとめ
音楽葬は葬儀や宗教に対する価値観の変化や個性の尊重意識などを背景として、従来から続いている宗教的儀式を踏んで没個性な葬儀になることを避けて故人の個性を尊重する、自由葬の一種です。
故人が好きだった曲を流すだけではなく、楽器奏者を招いての演奏やプロの生歌なども可能なので、故人の意思を生かすことができ、忘れられない印象深い葬儀になるでしょう。
最近の葬儀社が販売している一般葬・家族葬・一日葬パッケージプランに、派遣演奏を一名付加するなどの手軽な音楽葬から、クラシック楽団を呼んだりバンドでロックを流す音楽葬も作り込みが可能です。
選んだ曲によっては使用料が発生すること、音楽葬の規模や内容によっては斎場ではなくホテルやホールなどが適している場合もあります。