自宅葬とはどのような葬儀なのか?費用や流れ、メリットデメリットを解説

自宅葬とは

自宅葬とは故人の自宅で挙行する葬儀です。
元々日本で昭和の終わり頃までの葬儀は故人の自宅で行うものだったのですが、平成に入り葬儀会社や斎場が増加したこと、自宅ではなく病院での死亡が増えたことにより、自宅葬は下火になりました。

令和に入っても自宅葬を選ぶ人は少なかったのですが、コロナウィルス蔓延の影響で、多数の人が集まる斎場での感染を避ける為の葬儀として自宅葬が見直されるようになり、挙行数が増え始めたそうです。
ただし令和の自宅葬は、以前のように不特定多数が出入りする大規模な葬儀を挙行するのではなく、感染防止等の目的でごく近親の家族親族だけを参列者として挙行する「家族葬形式の自宅葬」が多くなりました。
さらに通夜を割愛することで葬儀日数を葬儀告別式の一日だけに短縮する「一日葬形式の自宅葬」もあり、さらなる感染対策と葬儀費用削減を両立できます。

また自宅葬が選ばれる別の理由として、斎場ではなく故人が長年住み慣れた自宅でゆっくりと自由な形で見送りたいという遺族の意向から、自宅葬が選ばれるようにもなってきました。
現在では昔からあるような一軒家で行う自宅葬だけではなく、条件が合えばマンションや賃貸住宅などの集合住宅で行う自宅葬も可能となっています。

自宅葬の流れ

自宅葬の流れは現在よくある葬儀と流れはほぼ一緒なのですが、普通の葬儀には無い「祭壇設営と飾り付け作業」「祭壇の撤去作業」が入ります。

01.臨終と搬送

病院で死亡した場合は医師による確認の後に死亡診断書が作成され、遺体は死亡処置が成されて霊安室に移されます。
霊安室の使用は時間が限られています。臨終を看取った家族の代表者は、主だった遺族などに故人の死亡を連絡すると共に葬儀社に遺体の搬送を依頼し、(自宅葬なので)自宅に安置する旨を伝えます。

02.安置と枕飾り

自宅に到着した遺体は葬儀社がドライアイスの処置をし、通夜日の納棺前まで布団に寝かせて安置します、このとき遺体の側や枕元に置かれる簡易的な小さい祭壇とその上に乗せる線香など一式が枕飾りです。

03.喪主の決定と葬儀打ち合わせ

葬儀社との打ち合わせと葬儀全体の運営のためにも喪主(葬儀の主催者)の決定をする必要があります。
喪主について故人のや家族の意向があればそれに従うべきですが、喪主に指名されても健康上の理由などがあれば辞退して大丈夫です。
喪主がなかなか決まらない場合は、故人の配偶者、故人の子と、序列に従うと喪主を決めやすいでしょう。
葬儀社については故人を搬送した葬儀社にしなければならないという決まりはありません。むしろ葬儀社によって様々な自宅葬プランがあるので、複数の葬儀社を比較してから契約すべきです。

04.参列者の選定と連絡

葬儀社と契約して火葬場の予約が取れ、通夜・葬儀告別式の日取りが決まったら、招待したい参列者への連絡です。
自宅葬を参列者を絞った家族葬形式にする場合は、葬儀に招く人の選定に困ってしまうかもしれません。そんなときは
1.自宅葬に参列して故人と最後のお別れをして欲しい人
2.今後の付き合いを考えて訃報だけ取り急ぎ伝える人
3.後日に訃報を知らせる人
に分けると選定しやすいでしょう。

05.納棺

通夜日の通夜挙行直前に行うのが納棺で、布団の上に安置されている遺体を棺の中に納めます。最近は葬儀社が遺体を収めてくれますが、その時遺族は遺体に手を添えるなどして故人の供養とします。
遺体を棺に納めたら、故人の愛用品や思い出の品で燃やしても良い物を副葬品として棺に入れます。

06.掃除と祭壇設営

自宅葬が他の葬儀と違う点は自宅内に祭壇を設置することで、祭壇設置前には自宅内の掃除と家具の移動が必要になります。
すでに清掃済みであったり家具を移動する必要が無い場合は、そのまま葬儀社が祭壇設営と細部の調整をし、花を飾ります。
ですが、突発的に家具を動かす必要が生じた場合などに許可が必要な時もあるので、最低一名の同席が必要です。

07.通夜と通夜振舞い

通夜は夕方から夜に始まり、通夜で焼香が済むと通夜振舞いという会食の始まりです。
自宅葬は時間の割り振りが自由にでき遺体に付き添うことも自由なので、本通夜として眠らず線香を絶やさず寝ずの番をすることも可能です。

08.葬儀・告別式

葬儀は僧侶が中心となって行う宗教的儀式で、告別式は喪主が中心で行われる社会儀式です。自宅葬を無宗教形式で行う場合は告別式のみの挙行になります。

09.出棺

出棺は故人を火葬場に送り出す儀式で、棺の蓋が開けられると喪主から順番に故人の周りを生花で埋める儀式が別れ花の儀です。
納棺の時に副葬品を入れない場合はこのときに副葬品を入れます。蓋を閉められた棺は霊柩車に乗せられて火葬場に向かいます。

10.祭壇の撤去・家具の移動

自宅葬は出棺の後に自宅内に設置した祭壇や装飾などを撤去し、家具を元の位置に戻しますので、出棺時に遺族のうち誰か一人が同席する必要があります。

11.火葬・骨上げ

棺と遺族参列者が火葬場に到着すると火葬炉前に焼香台が置かれて納めの儀をし、火葬炉内に棺が入れられてから1~2時間の間は控室での待機になります。
多くの火葬場は控室での飲食が可能なので、軽食を食べるなどして歓談します。
火葬終了の連絡が入ると故人の骨を箸で拾いながら骨壺に入れていく骨上げです。全ての遺骨を骨壺に入れ、さらに骨箱に納め、骨覆いをかぶせた時点で火葬と骨上げが終了するので、自宅に戻ります。

12.初七日法要と精進落とし

初七日法要は僧侶中心で行われるので無宗教葬にした場合は精進落としにだけになります。
精進落としは葬儀に参列して頂いた方々へ遺族からの感謝の意を表す食事会でもあり、一人ずつ配膳される少々高めの懐石料理などを選ぶのが一般的です。
精進落としが終わると自宅葬全体の終了です。

自宅葬の費用

自宅葬に限らず葬儀費用は
1.葬儀パッケージ料金
2.返戻品・飲食費
3.読経料と戒名料の合計金額→お布施
の合計金額になります。

1.葬儀パッケージ料金

葬儀社のサイトを見ると20万円弱から100万円超まで様々なのですが、安い葬儀商品は通夜を省いた一日葬形態だったり、遺体の搬送距離が短く設定されて、搬送距離の超過は別途料金になっていたりします。
また、30万円台など比較的低価格の場合は簡易的な祭壇を使い、価格の上昇に伴い祭壇も豪華になっていくようです。
高額商品は花祭壇の採用が多くなり、かなり高いものになると花祭壇というより生花まみれ的な状態になっていました。

2.返戻品・飲食費

返礼品は一人当たり500円~1,000円×参列者数が相場でしょう。
通夜振舞いは一人2,000円~3,000円×参列者数で、精進落としは一人4,000円~6,000円×参列者数を見ておけば大丈夫だと思います。

3.お布施

無宗教葬であればお布施は不要です。
読経料は地域によって20万円~30万円と幅があるようで、戒名料は宗派などによっても違いますが10万円で付けられる戒名もあれば100万円を超えるような戒名もあるそうで、戒名金額はの階位次第のようです。

自宅葬のメリット

自宅葬の大きなメリットは「故人が我が家に帰宅できる」「斎場費用を節約できる」の二点でしょう。他にも自宅葬ならではの利点がありますので書いておきます。

故人の希望を叶えられる

故人が長期入院をしている最中に他界した場合など、生前は自宅に帰りたがったのではないでしょうか。
あるいは施設などに入所していた場合でも、思い入れのある住み慣れた自宅に帰りたいと願う人は少なくありません。
故人の思い出の場所で見送る自宅葬なら、このような故人の気持ちを叶えることができるのです。

会場費用は不要

葬儀をするために借りることができる場所は主に斎場内の式場で、他にもお寺の本堂や公営会館などがあります。
例えば斎場の場合、式場使用料は収容人数や格式などで様々ですが、多くは通夜当日の夕方四時頃から翌日の午後三時までの使用で、安くて数万円から高い場合は100万円を超えることもあります。
よくある価格帯は20万円~30万円台後半ではないでしょうか。ですがこの金額を浮かせられるという節約効果はとても大きいです。

時間の制限が無い

葬儀社や斎場内の安置室などに遺体を預けた場合は面会時間の制限があったり、故人に付き添う場合は数万円の料金が発生します。
自宅葬の場合は会場利用時間帯に左右されることは無いので、安置時から納棺まで遺体に付き添うことができますし、通夜後の寝ずの番をすることも可能なのです。
また斎場の式場使用時間の制限は無関係なので、葬儀の日程や進行に余裕が持てます。
火葬場の予約時間に間に合えさえすれば時間的な縛りをさほど気にしなくても良い自宅葬は、故人とゆっくりお別れができる葬儀なのです。

自由な葬儀ができる

斎場などの場合、会場内の装飾や音響に規律や制限があるので自由な飾り付けができないこともありますが、自宅葬であればそのような制限はありません。
近隣の許可をもらったり常識の範疇を超えないという制限の下であれば、故人や遺族の遺志を汲んだ内容にできます。
例えば装飾に関して言えば、故人が好きだった派手目の花を多用した飾り付けにすることもできますし、音響については著作権に触れない範囲で故人の好きだった曲を流すこともできます。
また、菩提寺が無ければ宗教者を呼ばない無宗教葬でも大丈夫(読経料が節約できます)ですし、故人が生前よく通っていた店の料理などを参列人数分注文して通夜振舞いにすることも可能です。
(通夜振舞いに、故人が好きだったラーメン店の全部乗せラーメンが出たという話もあります。)
冒頭でも書きましたが、自由な形式の葬儀ということで通夜を割愛すれば通夜振舞いの費用を抑えることもできますし、一日で葬儀が完了するので(一日葬)遠方からの参列者が宿泊する必要もなくなります。

肩の力を抜いた葬儀ができる

住み慣れた家で葬儀をすること、細かい時間の段取りなどはそれほど必要無いことなど、あまり気を配らずに葬儀を挙行することができます。

自宅葬のデメリット

自宅葬の利点を書いてきましたが良いことばかりではありません。自宅葬の体的な欠点は、近隣への挨拶や許可、自宅内の清掃や家具の移動、参列者の接待など「遺族の体力的な負担」です。

集合住宅では自宅葬ができない場合も

マンションで葬儀が禁止となっていることもあるので規約の確認をすること、賃貸住宅の場合は家主の許可を取る必要があります。

ご近所への配慮が必要

近所の人を葬儀に招かない場合でも、近親者のみで葬儀を挙行することや香典などの辞退を町内会などを通じて近所に周知し、特に隣家などには直接訪問して事前に挨拶しておく方が良いでしょう。
葬儀中は木魚や鈴(リン)の音などが近隣に響くことも考えられますし、祭壇組み立て撤去の音や葬儀社や参列者の出入りなどが目に付くなどもありますので、近隣の直接の挨拶は重要です。
マンションなどの場合、左右の部屋だけでなく階上階下の部屋にも挨拶をしておくと確実です。

家財の移動と祭壇の設営片付け

何らかの家具が置いてある部屋に祭壇を設置して棺を置き参列者達が座る場所を作るためには、家具の移動が必要なのですが、葬儀告別式の終了後に家具を元の位置に戻すことも必要です。
準備と片付けが結構大変です。

自宅内がある意味丸見え

自宅内を葬儀社や参列者が歩き回ったり見られたりすることを意識しておきましょう。自宅内外の念入りな政争は必須です。
特に汚いとか悪臭のあるトイレはまずいので念入りに掃除をし、消臭剤などを準備する必要があります。

接待が必要

通夜振舞いと精進落としなどを自宅で行う場合、料理や食器の用意も後片付けも全て自分で行います。
参列者が故人と同居していた家族だけであれば、ほぼ問題ありませんが、その他の親族なども呼ぶ場合に接待をする必要が出てきます。
さらに言えば、遠方から来た参列者がを自宅に宿泊させたり風呂や朝食昼食の用意が必要になったりと、参列者の人数などによっては目まぐるしく接待しなければならないのが自宅葬です。

秘密裏に行えない

ご近所の人を呼ばず参列者を極近親に絞り、なるべく目立たないように葬儀を行うとしても、枕飾りや通夜告別式に使う祭壇の出入りがあり、さらにはもっと目立つ棺の出入りもあります。
出棺するときは喪服を着た参列者全員が家の外に出るでしょうし、宗教者を呼んだ場合は派手な法衣を着たお坊さんの出入りもあります。
このように目立つ人や物が頻繁に家に出入りする状況で葬儀を隠すことは不可能です。どんな形式の葬儀であれ秘密裡に行いたいのであれば、居住地域からかなり離れた斎場がお勧めです。

付き合いが多い人には向かない

故人の付き合いが多く葬儀に多数の参列者を招待したいのであれば、参列者を絞る家族葬形式には不向きですし、自宅に不特定多数が行き来する状態は精神的に疲れてしまうでしょう。
特に集合住宅への不特定多数の出入りは複数の家庭からの苦情につながることもあるので、自宅葬は諦めた方が賢明です。

自宅葬の注意点

例え集合自由宅でも一軒家でも棺の出入りが不可能だったというだけで自宅葬ができないこともありますし、そもそも参列者などが全員座れる場所の確保も自宅葬の必須条件です。

自宅内の場所の確保

参列者を限られた遺族親族などに絞れば人数を少なくできますが
・祭壇を設置する場所
・棺を置く場所
・喪主と宗教者、参列者全員が着席できる場所
が確保できる部屋であることが必須です。
また
・喪主と参列者の靴を置ける広さの玄関であるか
・マンションなどの場合は、棺が玄関ドアを出て共用廊下の対の壁に当たらずに90度曲がって廊下を進めるか
などの事前確認が必要です。

駐車場の用意が出来るか

自宅葬の場合、棺を運ぶ寝台車や霊柩車と、お坊さんなど宗教者用の車の駐車場所が最低限必要です。
車で参列者が来る場合、自宅前や自宅近辺に路駐が増えたりすると近所迷惑になり、後々の近所付き合いにも悪影響になるので、ご近所に協力を仰いで参列者用の駐車場の確保をすることも必要です。

電気容量の確認

自宅で葬儀をする場合は祭壇などに多くの照明機材を使い、音響設備を使用する場合もあるので通常の生活で使っている電力以上の電力が必要になります。
例えば通夜の最中に電力上限を超えて家の内外が真っ暗になってしまったら大変ですので、電気容量は必ず確認しましょう。

エレベーターで棺を運べるか

集合住宅の場合二階以上であればエレベーターで棺を運ぶのですが、元々奥行きがあって横にした棺を入れられるか、エレベーターの壁面のトランクを開けて棺が入れられるか確認する必要があります。
遺体搬送時のストレッチャーが入れば棺も入るでしょう。トランクの扉の鍵はマンションの管理組合から事前に借りるか、棺の搬送時に管理組合の人に開けてもらいましょう。

一軒家でも棺の出入り確認は必要

例えば二階建一軒家で、祭壇や棺を二階に置く場合、90度中折れ階段や180度中折れ階段など、階段の形状によっては中折れ部分で棺が壁に当たってしまい、移動が不可能になることもあり得ます。
それでも無理に移動すれば壁に穴が開いたり棺が欠損することも考えられますし、ぶつかった衝撃で棺の中の遺体や副葬品が動き、棺の中身が散乱したり遺体が傷むこともあります。

自宅葬を嫌がる葬儀社

斎場を使った葬儀に慣れていて自宅葬の経験が少ない、あるいは自社所有の斎場や葬祭ホールを使うことで経費を圧縮したいなどの目的で、自宅葬の依頼を渋る葬儀社もあるそうです。
見積もり依頼時に葬儀社があからさまに自宅葬の経験不足や、自社斎場の使用を明言することは無いと思いますので、自宅葬に後ろ向きな気配を感じたら別な葬儀社に相談してみましょう。

自力で自宅葬の挙行は可能か

先に結論を書いてしまえば「故人の死亡よりかなり前から準備していれば何とかなる」と言えますが、実際は葬儀社に任せるべきです。

まず、先に書いた自宅葬の注意点の確認事項のほとんどを、故人が他界してすぐに全て行えるかと言えば不可能ですし、地域によっては火葬場の予約は葬儀社のみが可能であることも考慮しなければなりません。
さらに、先に棺や骨壺の購入をしなければなりませんが、他界していないのに棺を買うというのも故人(になる人)や家族・遺族になる人などの理解と許可が必要になりますし、買った棺の保管場所の問題もあります。
祭壇についても、借りて自力で搬入・設置・搬出して返却するだけではなく、仏具などの飾り付けをして何本もの電源を接続するという細かい作業を、葬儀の素人が自身で行うというのも非現実的です。

もし本当に自力で自宅葬をしたい場合
・素人でも予約ができる火葬場であること
・死亡よりかなり前の日からの綿密な準備と周囲の理解と協力があること
・棺の出し入れが問題無い
・葬儀ができる広さの部屋と玄関
最低でもこれらの条件を満たすことが必要です。

ただしその他様々な要素から考えて、故人が他界してから準備する自力の自宅葬は全くお勧めできません。

自宅葬のまとめ

自宅葬は、故人の「住み慣れた我が家で最後の時を迎えたい」、喪主や親族の「斎場を借りる費用を削減して葬儀全体の費用を節約したい」、などの願いが叶えられる葬儀です。
一方で、近隣への迷惑防止、自宅内外の清掃、家具の移動、参列者への接待などの遺族側の負担があり、他の葬儀のように葬儀社にほぼ全てお任せという訳にはいかない部分もあります。

自力で自宅葬を行うこともできなくはありませんが、故人が死亡するかなり以前からの準備と火葬場の予約などの問題もあるので、葬儀社を通して行うのが良いでしょう。
葬儀社に依頼する自宅葬なら、ある程度の条件さえ満たせば、故人の気持ちを全うすることもできますし経済的なので、集合住宅一軒家を問わずお勧めできる葬儀形態です。